Source: http://wom-jp.org/j/REPORT/childabuse.html
執筆・社会福祉法人 子どもの虐待防止センター専任相談員 龍野 陽子
■児童虐待の認知から防止法制定まで
家庭における子どもへの虐待は、昔から世界のどこでも行われていたに違いありません。しかし日本では、その事実を社会が認めはじめたのは、やっと10年前位からの事です。
10年前位から、東京や大阪で民間団体が子どもの虐待防止の活動を始めると「私は子どもを虐待していて、やめたいのにやめられない」といった匿名の親からの電話相談が殺到するようになりました。その大部分は、必ずしも貧困や家庭崩壊、若年の両親、薬物やアルコール依存などの問題が見られない、むしろ教育熱心な母親からのものでした。虐待が決して一部の社会階層に限られたものではないことが、明らかになってきました。
その後、児童虐待の存在の認知がすすむにつれ、病院や保健所、保育園、小学校などで被虐待児が「発見」されることが多くなり、また報道されることも多くなりました。このように「発見」される虐待は、親から「自分の行為は虐待ではないか」と電話相談してくる場合に比べて重症であり、背景には多問題を抱えた家庭と、虐待を否定し援助を拒否する親がいました。
児童相談所で受理する虐待件数もうなぎ上りとなり、2000年には全国で1万件を超えました。これは看過できない大きな社会問題となり、2000年には議員立法により「児童虐待の防止等に関する法律」が成立施行されることになりました。この法律は基本的には新しいシステムを打ち出したものではありませんが、国会で児童虐待が正面から取り上げられて議論されたこと、虐待の定義と禁止が法制化されたこと、児童にかかわる専門職に虐待の発見と通告が促された事、児童の安全の確認や保護に警察の協力を求めるよう促している点などにおいて、これまでの対応に法的根拠を与えて、児童相談所の実務がやりやすくなったなどの意義があります。
■日本における児童虐待の特色と問題点
日本ではまだ父親は仕事に、母親は育児に全責任を負うという役割分担意識が根強く、育児が両親の協同作業であるという認識は薄いのです。その結果母親のみが、育児の責任を負い過ぎて、身体的にも心理的にも負担が重くなっています。さらに日本人の特性として、他人との比較や、他人からの評価を気にし過ぎるところがあります。子どもの発達や学業成績、素行などに問題があると、母親としての自分の評価が問われると思い、自分が非難されまいとして、行き過ぎたしつけをしてしまうということもあります。中程度以上の社会階層における母親の子どもへの比較的軽度の虐待にこのような背景があります。
また日本では、育児は親の私的な行為であるという考えが強く残っていて、公的機関が家庭問題に介入することを拒む風潮があります。子どもは親の所有物ではなく、社会の子どもとして守り育てていこうという意識は薄いと言わざるを得ません。必然的に子どもの社会的権利も確立していません。そのことの生み出す弊害は数多くあり、特に重症度の高い虐待への対処を難しくしています。
一つは親権を理由に、虐待している子どもの保護に反対する親に対して、児童相談所が抵抗できないことがあります。児童相談所が、親の反対を押し切り子どもの保護を裁判所の審判に求める法律はありますが、審判の結果が出るまでに時間がかかり過ぎ、証拠集めにも多大な労力を要するため、実際に審判を求める事例は数多くありません。
もう一つの弊害は、虐待されている疑いのある子どもを見ても、他人は口出ししないことにつながり、虐待の発見を少なくしています。新しくできた「児童虐待の防止等に関する法律」においても、国民、なかんずく専門職は虐待の早期発見と通報に務める義務があると書かれているのみで、ペナルティがないため実効性が期待できません。
さらに大きな弊害は、子どもにかける社会費用の少なさです。日本では里親制度が充実しておらず、虐待を受けた子どもの引き受け先は、児童養護施設であることが多いのです。しかし児童養護施設の児童一人当たりの居住空間の基準は老人福祉施設のそれの3分の1と言われています。児童養護施設の職員配置基準も欧米の基準の3分の1程度であり、児童相談所のケースワーカーの数も一時保護所も不足しており、子どもの心理治療の出来る精神科医師や心理療法士も全く不足しています。重度の虐待を受けた子どもを治療するシステムがハード面でもソフト面でも全く整っていないのです。
■今後の虐待への対応
「児童虐待の防止等に関する法律」は3年後に見直すことになっています。新しい法律に現在不足していることがどれだけ盛り込まれるかが大きな課題です。現在児童相談所には、親の相談にのる相談業務と、子どもの保護を決定し措置する業務の両方が課せられているわけですが、アメリカのように、子どもの保護の決定は司法権限で迅速に行われることが望ましいと思われます。その結果、児童相談所は虐待する親への相談とカウンセリング、子どもの心理治療に専心できるようにする必要があると思われます。児童相談所のケースワーカーを専門職に変え、虐待対応の研修も集中して行っていくことが必要です。
予防の見地からは、保健所や保育園を活用し育児支援を行っていくことも必要です。また、公的機関より民間の虐待防止団体の方が親からの相談を受けやすく、そのことが虐待の重度化の防止に役立っていることは、民間団体への相談の多さからも明らかです。しかし現在30余りある民間の虐待防止団体は、ほとんどボランティアで運営されており、財政基盤はどこも危機的な状況です。民間団体の活動を支援するためには運営資金や場所の提供といった、行政からの財政支援も欠かせなくなってくると思います。
関連リンク
家庭内で起こる子どもの虐待を早期に発見し虐待防止を援助するために平成3年に設立された民間団体です。平成9年に社会福祉法人となり、主な仕事は子どもの虐待110番(03-5374-2990)で虐待に関する相談を受けることと、虐待をする母親の自助グループの運営、テキスト作成セミナー開催などを行っています。
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龍野 陽子
平成3年「子どもの虐待防止センター」設立時より専任電話相談員。
私たちの現在では、日本の女性と子供の人権に関わる社会問題に取り組んでいる個人・グループに、それぞれの分野について報告していただます(内容は2001年10月時点でのものです)
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また、現代日本女性の生き方を海外に紹介する目的で、英訳「Japanese Women Now」をWOM英語版ホームページに掲載しています。
今回取り上げたトピックは、ドメスティック・バイオレンス、夫婦別姓、介護、女性の就労、セクシャルハラスメント、雇用機会均等法、 シングルマザー、児童虐待、女性と医療、 リプロダクティブ・ヘルスです。一覧は、こちらです。
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このコーナーは、(財)女性のためのアジア平和国民基金より2001年度自立活動助成金を受けて作成いたしました。