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平成l7年(ラ)第l271号親権者変更審判に対する抗告事件(原審・さいたま家庭裁判所平成17年(家)第30045号,同30062号)

決    定

国籍 

カナダ国

住所  

カナダ国ブリティッシュコロンビア州バンクーバー市41番通り 西3424番

(3424West4IstAvenue, VancouverBCV6N3E4, Canada)

抗 告 人  アレクサンダー・ムーレー・ウッド

(原審判の表示: ウッド・アレクサンダーマリー)

同代理人弁護士   本田正幸

本籍

さいたま市中央区円阿弥4丁目4番

住所  

さいたま市中央区円阿弥4丁目4番20号

被 抗 告 人   ウッドあや子

同代理人弁護士  伊須慎郎

本籍  

さいたま市中央区円阿弥4丁目4番

住所  

さいたま市中央区円阿弥4丁目4番20号

未 成年 者  アレクサンダー多佳良間庭

(アレクサンダー・夕カラ・マニワ・ウッド)

平成6年5月21日生

国籍 

カナダ国

居住地 

さいたま市中央区円阿弥4丁目4番2O号

未 成 年 者   マナミ・シオナ・マニワ・ウッド

1997年1月6日生

主   文

本件抗告をいずれも棄却する。

理   由

第1 抗告の趣旨及ぴ理由

別紙即時抗告中立書及ぴ即時抗告中立理由書に各記載のとおり

第2 事案の概要

1 日本人である被抗告人と,カナダ人である抗告人とは,婚姻してその間に未成年者アレクサンダー多佳良間庭(以下「未成年者タカラ」という。)及ぴ未成 年者マナミ・シオナ・マニワ・ウッド(以下「未成年者マナミ」という。)をも うけたが,カナダのプリティッシュコロンビア州最高裁判所において,離婚並 びに未成年者タカラ及ぴ未成年者マナミの各親権者を抗告人と定める旨の裁判がされ,同裁判は確定した。

 本件は,被抗告人が,未成年者らをカナダから日本に連れ帰りそのままその手許に置き続けているところ,抗告人に対し,未成年者らの各親権者を抗告人から被抗告人に変更することを求めた事案である。

2 原書は,次のとおり判断して,被抗告人の中立てに基ろき,未成年者タカラ 及ぴ未成年者マナミの各親権者をいずれも抗告人から被抗告人に変更した。

  (1) 子の監護に関する国際裁判管轄については,子の福祉の観点から子の常居所地の裁判所に国際的な裁判管轄権を認めるのが相当である。したがつて,本件各申立てについては,未成年者らの常居所地であるさいたま市を管轄する日本の裁判所が国際裁判管轄権を有する。

  (2) 未成年者タカラは日本とカナダの二重国籍を有しており,未成年者マナミ はカナダ国籍であるから,法例2l条及ぴ28条により,その親権者変更の準拠法は未成年者夕カラについては日本法,未成年者マナミについてはカナダ法となる。日本法は家庭裁判所のする親権者変更の審判による親権者の変更を認めている。カナダ離婚法は,17条において,裁判所は,親権命令 が下された後に状況の変化が生じた場合には,その状況の変化にかんがみ子の最大の利益を考慮して親権の変更命令を下すことができると定めている。カナダ法の裁判所の親権変更命令は我が国の家庭裁判所のする親権者変更の審判をもって代えることができるものと解されるから,未成年者らについて,当裁判所において親権者変更の審判が可能である。

  (3) 未成年者らは日本での被抗告人との現在の生活環境に充分に適応し,抗告 人に引き取られカナダに帰ることを拒否していることからすると,未成年者 らの福祉のため,同人らの親権者を抗告人から被抗告人に変更するのが相当である。

  3 これに対し,抗告人が上記各審判につき抗告した。

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所の,本件の紛争の経緯等に関する事実関係の認定判断は,原書判8頁7行目の「11月16日命令」を「11月26日命令」に補正するほかは,同「理由」中の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。

  2 本件各中立ての国際裁判管轄権について

   (1)未成年者らの監護に係る本件各中立ての国疎裁判管轄については,条約等 の定めがないから,事柄の性質上,子の福祉の観点から決すべきである。そうすると,子の福祉に着眼して,子と最も密接な関係を有する地である子の住所地国に国際的な裁判管轄権を認め,外國国籍の子においてはその子の常居所地国の裁判所に国際的な裁判管轄権を認めるのが相当である。

  記録によれぱ,未成年者タカラはカナダ国籍と日本国籍とを有し,肩書住 所地に住民登録されていること,未成年者マナミはカナダ国籍を有し,在留 期間3年とする在留許可を受け,外国.人登録において居住地として肩書居住地が登録されていること,未成年者らは,平成16年12月以降さいたま市内にある被抗告人の実家で被抗告人の養育監護の下で生活し,平成17年1月からはさいたま市内の小学校に通学しており,今後とも現住居で生活することを希望していること,母である被抗告人は日本人であり,親権者となつ て未成年者らを日本で養育する意向であることが認められる。

  これらの事情によれば,未成年者タカラは,その肩書住所地が生活の本拠であるから,そこが住所であり,したがって我が国が住所地国である。未成年者マナミについては,上記の居住期間,居住目的,居住状況等を総合勘案すると,その肩書居住地が常居所であると認められしたがつて我が国が常居所地国である。

そうすると,本件各中立てについて,いずれも我が国の裁判所が国際裁判管轄権を有するというべきである。

  (2) 抗告人は,本件各中立ての国際裁判管轄権は専らカナダにあり,日本にはな いと主張し,その根拠として,カナダ法では,子が奪取された事情があるときはプリティッシュコロンビア州に管轄権があること,未成年者らの住所はカナダにあることなどを挙げる。

 しかしながら,前述のとおり本件各中立ての国際裁判管轄については,子 の福祉の観点から,子と最も密接な関係を有する地である子の住所地国に国際的な裁判管轄権を認め,外国国籍の子においてはその子の常居所地国の裁判所に国際的な裁判管轄権を認めるのが相当である。そして,未成年者タカ ラはその肩書住所地が住所であるから,我が国が住所地国である。未成年者マナミはその肩書居住地が常居所であるから,我が国が常居所地国である。したがって,本件各申立てについて,いずれも我が国の裁判所が国際裁判管轄権を有する。抗告人が主張する事由(カナダ法による裁判管轄椿)は,この判断と両立し得ないものでなく,結論を左右するものでない。

3 本件各中立ての準拠法について

(1) 親権者の変更や,子の監護に関する処分としての子の引渡いま,法例21条 の「親子聞ノ法律関係」に当たるから,原則として子の本国法が準拠法となる。

  未成年者夕カラは日本とカナダの二重国籍を有しているから,法例28条 l項本文・ただし書により日本の法律が本国法となる。したがつて,未成年者タカラに係る本件中立ては,同人の本国法である日本の法律(民法819条6項)が準拠法となる。

  未成年者マナミはカナダ国籍であるから,法例21条により同人の本国法であるカナダの法律が準拠法となる。カナダ離婚法は,そのl7条で,裁判 所は,親権命令が下された後に状況の変化が生じた場合には,その状況の変 化にかんがみ子の最大の利益を考慮して親栢の変更命令を下すことができると定めているから,これによって同人に係る親権者変更の中立てを判断することになる。

(2) 抗告人は,本件各中立ての準拠法はカナダ法と考えるべきであるが,プリテ ィッシュコロンビア州家族関係法によれば,子の奪取が行われた場合,奪取 の直前に常居所地であった裁判所が裁判管轄を有し,奪取により連れてこられた地の裁判所は,一定の例外事情がある場合を除き,子らの親権,監護権に関する裁判をしてはならない旨規定しており,同規定は管轄規定だけではなく,実体法規定も含むものと解するべきであるから,上記例外事情が認められない限り,我が国の裁判所は,未成年者らの親権,監護権に関する裁判をすることはできない旨主張する。

  しかしながら,抗告人が提出する乙第25号証の2によれぼ抗告人主張の規定は,いずれにしてもプリティッシュコロンビア州の裁判所が管轄権を行使する場合を挙示しているものであり,抗告人主張の趣旨を含むものと認めることはできず,また,裁判準拠法として他の裁判所の判断を拘束すべき実体法上の規定に当たると詔めることもできない。

4 以上を前提に,本件各中立ての当否について判断する。

  (1) -件記録によれば,親双方の事情として,次の事実が穏められる。

   ア 被抗告人と抗告人は,婚姻後カナダに移り,共に未成年者らを養育監護してきたが,平成14年4月被抗告人が家を出て以後別居し,カナダのプ リティッシュコロンビア州最高裁判所において平成16年2月l8日付けで未成年者らの各親権者を抗告人と定められ,同年7月l6日付けで離婚の判決がされたものである。

   イ 別居後は抗告人において未成年者らを養育監護し,被抗告人は未成年者らと面接交渉を行ってきており,毎年11月には上記裁判所の命令に基づき,未成年者らを連れて日本にl0日間ほど戻り,被抗告人の実家に滞在してきた。被抗告人は,離婚後も, 11月26日命令に基づき,同年12月9馴こ未成年者らを抗告人に引き渡すとの条件で,同年11月28日未成年者らを連れて日本に帰国した。被抗告人は,沖縄旅行等を経て同年12月初めころから被抗告人の実家に滞在するようになったが,未成年者らが日本で被抗告人と生活することを希望するようになったこともあつて,11月26日命令の定める期日に未成年者らを抗告人に引き渡さず,その まま被抗告人の実家において未成年者らの養育監護を続けている。被抗告人は,未成年者らの養育監護に当たり,父母の協力を得られており,被抗 告人方における未成年者らの養育環境は良好である。

   ウ これに対し,抗告人は,未成年者らに対する愛情が十分あり,カナダに おける養育監護の実績も相当あるものの,未成年者らがカナダにある抗告人の下に帰るのを拒む態度を示しているという問題がある。

(2) 他方,一件記録によれば,子の事情として次の事実が認められる。

   ア 未成年者タカラはカナダ国籍と日本国籍とを有し,肩書住所地に住民登録されている。未成年者マナミはカナダ国籍を有し,在留期間3年とする在留許可を受け,外国人登録において居住地として肩書居住地が登録されている。

   イ 未成年者らは,平成16年12月に被抗告人の実家に移り,以後被抗告 人の養育監護の下で,平成17年1月からはさいたま市内の小学校に通学して,学校や友人関係にも適応して生活を楽しむなど,心身共に順調に成 長している。

  ウ 未成年者らは,これまで-緒に成育してきており,現在も互いに助け合って暮らしている。未成年者らは,家庭裁判所調査官による調査の際も,引き続き被抗告人の養育監護の下で被抗告人の実家で暮らしていきたいと明言しており,抗告人に引き取られてカナダに帰ることを拒否している。

(3) 親権者の変更の必要性について

  ア 抗告人は,カナダの裁判によって未成年者らの親権者と定められ,以後 未成年者らの養育監護に当たってきたものであり,その養育監護に問題があった形跡はない.被抗告人は,カナダの11月26日命令に基づき,未 成年者らと面接交渉している最中に,同命令の定める条件に違反して未成年者らを抗告人に引き渡さず,そのまま未成年者らを養育監護しているのであり,その養育監護は同命令に違反して始まったものである。民事訴訟法ll8条の趣旨に照らせば,これらの-連の過程におけるカナダの裁判の有効性自体は,我が国においてもこれを前提にすべきものと認めるべきである。

  イ しかしながら,未成年者タカラは日本画籍をも有し平成16年12月 以降被抗告人の養育監護の下で学校及び家庭生活に充分に適応しており,その養育環境は良好であること,未成年者夕カラは今後も被抗告人の養育監護の下で引き続き現住居で生活したいという意思を有していることは前示のとおりであり,同人の意思は,同人のl1歳という年齢からみて尊重すぺきである。これらの事情を総合考慮すると,被抗告人にカナダの裁判に対する違反がある点に照らせぼ被抗告人の本件中立ては背信的であるといえるが,これをもつて直ちに親権者変更の申立てを不許とするのは未成年者の保護という制度の趣旨を余りに没却するものであり,現状での未 成年者タカラの健全な成長のためには,引き続き被抗告人の下で安定的な養育環境を確保する必要があり,子の福祉の観点から,未成年者タカラの 親権者を抗告人から被抗告人に変更する必要が認められる。

  ウ また,未成年者マナミはカナダ国籍であるが,在留期間3年とする在留許可を受け,平成16年12月以降被抗告人の養育監護の下で学校及び家庭生活に充分に適応しており,その養育環境は良好であること,未成年者 マナミは今後も被抗告人の養育監護の下で引き続き現住居で生活したいという意向を有していることは前示のとおりであり,同人の意向は,その行動に照らし真意に出たものと認められるから,これを尊重すぺきである。これらの事情に,未成年者らはこれまで一緒に成育してきており,現在も 互いに助け合つているから,兄妹分離を避けることが望ましいこと,未成 年者マナミは母親から継続的で細やかな愛情を受けることが必要な時期であることを併せ考慮すると,被抗告人にカナダの11月26日命令違反がある点に照らせば,被抗告人の本件中立ては背信的であるといえるが,現 状での未成年者マナミの健全な成長のためには,引き続き被抗告人の下で安定的な養育環境を確保する必要があり,子の最大の利益を考慮して,未 成年者マナミの親権者を抗告人から被抗告人に変更する必要が認められる。

 エ  抗告人は,本件各中立てが認容されるぺきではない理由として,①被抗 告人の行動は,カナダにおける裁判所の命令を無視した違法なものであり犯罪であるから日本の裁判所における親権者の変更は子の福祉に反すること,②本件は子の奪取の事件であるから,親権者の変更の基準としても親権者と非親権者との間において利益の程度にかなり有意的な差がある場合であることを要すること,③このような事情を踏まえると親権者の変更は親権者の側に問題があった場合等親権者の監護における消極的要素に重点を置くペきであるところ,抗告人‥ま親権者を変更しなければならない理由はないこと等を挙げる。

  上記①の点について,なるほど,被抗告人は, 11月26日命令に基づき,未成年者らと面接交渉している最中に,その定める条件に違反して未成年者らを抗告人に引き渡さず,以後被抗告人が未成年者らを養育監護しているのであって,同命令に違反しており,この点は,日本の家庭裁判所による親権者の変更の必要性を半|j断する上で重要な半|」断要素の-つになる。しかし,日本の家庭裁判所による親権者の変更の必要性は,子の福祉 の観点から双方の親の事情の比較や,子の意思等の子の事情を総合考慮して判断すべき事柄である。被抗告人が同命令に違反して,未成年者らの養 育監護を始めたこと自体は,もちろん不当な行為であり,被抗告人におい てその責を負うべき問題であるが,本件諸事情や当時の同人の精神状態等にかんがみれば,同命令違反があるとの-事をもって,被抗告人が親権者としての適格性を欠くとまではいえず,子の親権者の変更の必要性は,改 めて子の福祉の観点から再検討する必要がある。

 上記②及び③の点について,日本の家庭裁判所による親権者の変更は,子の福祉の観点から,その必要がある場合に限りて認められるが,その必 要性は,上記のとおり双方の親の事情の比較や子の意思等の子の事情を総合考慮して判断すべきであり,親権者の側に問題があつた場合に限られるものではなく,こうした事情は本件のような事案でも変わりない。

  そして,前述した未成年者らの意向や,未成年者らが日本での被抗告人との現在の生活環境に充分に適応しており,その健全な成長のためには引き続き被抗告人の下で安定的な養育環境を確保することが必要であること等の事情を総合考慮すると,被抗告人に11月26日命令違反がある点等を考慮に入れても,日本の家庭裁判所において親権者を抗告人から被抗告人に変更することが相当であるというぺきである。

 なお,この点は,仮に抗告人の主張する枠組みを前提にしたとしても,両親の間で板挟みになった未成年者らがその真意に基づき十分に検討した末にたどり着いた結輪が,被抗告人の監護の下で日本で生活をしたいというものであり,このような結論に達する過程に不自然,不合理な面がある とは認められず,また,客観的に見て子の健全な養育に反する事情があるとも認められない以上,子の福祉の観点に立つと,抗告人と被抗告人との間において利益の程度にかなり有意的な差がある場合に当たると認めるべき事案といえるから,結論に差は生じ得ない。

5 以上によれぼ未成年者タカラ及ぴ未成年者マナミに対する各親権者を抗告人から被抗告人に変更することが相当であり,これと同旨の原書判は相当である。よつて,本件抗告をいずれも棄却することとし,主文のとおり決定する。

平成17年9月21日

東京高等裁判所第l6民事部

裁判長裁判官    鬼  頭 季 郎

裁判官           畠 山    稔

裁判官           菅 野 雅 之


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